(ニューヨーク)ベトナム当局は著名なジャーナリストでブロガー、文筆家のフイ・ドゥック氏をただちに釈放し、すべての容疑を撤回すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。2024年6月1日、ハノイ警察はフイ・ドゥック(本名チュオン・フイ・サン)氏を拘束し、刑法第331条の「民主主義と自由への権利を濫用し、国益を侵害する行為」で起訴した。この条項は適用範囲がきわめて広く、当局が政府批判者に頻繁に適用しているものだ。
当局がフイ・ドゥック氏を逮捕・勾留したことを家族に伝えたのはその7日後のことだ。これは実質的な強制失踪であり、身の安全についての懸念を生じさせる。身柄が拘束されて以来、弁護士も家族も氏との面会を認められていない。
「フイ・ドゥック氏を不当に逮捕したベトナム当局は、ベトナムできわめて勇敢で、大きな影響力をもつジャーナリストを標的にしている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理パトリシア・ゴスマンは述べた。「国際ドナーとベトナムの貿易相手国は、フイ・ドゥック氏の逮捕を言論の自由への露骨な攻撃であると非難するとともに、氏の即時釈放を求めるべきである」。
フイ・ドゥック氏は1962年にベトナム中北部ハティン省で生まれた。18歳で国軍に入隊し、1980年代半ばにはベトナム占領下のカンボジアで従軍した。1988年、戦後のベトナムに改革機運が高まるという稀な状況が訪れ、共産党のメディアがかつてないほど自由化されていた時期に、氏はホーチミン市共産青年団が発行する日刊紙「若者(トゥオイチェー)」のスタッフとなり、国内政治を執拗に追う記者としての評判を確立した。数年後には「サイゴン・マーケティング(Sai Gon Tiep Thi)」紙への寄稿で、首相一族が行った身内びいきの不正取引や不透明な土地購入をめぐる大規模な汚職スキャンダルを暴いている。
ジャーナリストとしての活動が国際的な注目を集め始めたことで、氏はヒューバート・H・ハンフリー奨学金により米国のメリーランド大学で学んだ。2006年にベトナムに戻るとブログを開設し、社会や政治に関する重要な問題についての論評を引き続き投稿して人気を集めた。2010年、ベトナム当局によってこのブログは閉鎖された。2012年、氏はニーマン・フェローシップによりハーバード大学で1年間学んだ。その間に、最も強い影響力を持った著作、戦後ベトナムをジャーナリストの立場から綴った『勝者の側(Ben Thang Cuoc)』を発表した。この本は戦後ベトナムの歴史と政治に関する最も重要なノンフィクションとして広く認められている。ただしベトナム国内では公には販売されたことはない。
2020年以降、フイ・ドゥック氏は、森林伐採などの環境問題をはじめとするベトナムの社会・政治問題について執筆を続けている。35万人以上のFacebookフォロワーを持つ氏は、Facebookで活動するベトナム人政治評論家のなかでもきわめて強い影響力を持っている。逮捕直前のFacebookへの書き込みでは、抑圧的なやり方で悪名をはせる公安省への権力集中が無数の問題をもたらすと警告していた。この5月にベトナムの国家元首である国家主席に就任したトー・ラム氏は元公安相だ。
別の書き込みでは、共産党指導部が主導する公式の汚職撲滅キャンペーンの欠陥を批判していた。当局は、この2つの書き込みがなされた直後に氏を逮捕した。Facebookの個人ページも削除され、インターネットでアクセスができなくなっている。
ここ数か月、ベトナム当局は政府批判者への取り締まりを強化し、政府を批判したり改革を求めたりしてきた著名な人権活動家やジャーナリスト、環境活動家の有名どころをほぼ全員拘束している。
「批判的な報道を行ったジャーナリストを逮捕することは、ベトナム政府が民主主義と法の支配からますます遠ざかっていることのなによりの証拠だ」と、前出のゴスマン局長代理は述べた。「国家権力の濫用と汚職を告発したフイ・ドゥック氏への処罰は、近い将来ベトナムで経済改革や政治改革が行われると期待する人びとにとって懸念すべきことである」。