(東京)–日本、米国、インド、オーストラリアの首脳は、アジアにおける人権危機および民主主義の後退に対処するための対応で合意すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。4カ国の首脳や外相による安全保障・経済協議の枠組み「Quad(以下、クアッド)」は、2022年5月22日に東京で会合を行う。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア担当政策提言ディレクター、ジョン・シフトンは、「クアッドは、協議決定の中心にアジアの甚大な人権・人道危機を据える必要がある」と指摘する。「それぞれに大きく異なる原因と特徴があるものの、アフガニスタン、ミャンマー、北朝鮮、スリランカの人権危機は、すべて安全保障上の問題として上位をしめるはずだ。」
クアッドの主な目的は、アジアにおける中国の権威主義的影響力の高まりに対抗することにある。その目標達成のためには、クアッドが人権制度、民主的統治、各国および地域全体の法の支配をより促進させていく必要がある。クアッド首脳は、アジアのこうした人権危機に対応するうえで共通の足場を築き、特定の懸念について公に意見を述べるべきだ。
ミャンマー問題に関しては、東南アジア諸国連合(ASEAN)の失敗している「5項目の合意」頼みをやめ、新たに行動を起こすことがクアッドに求められている。クアッドは、事態をめぐり志を同じくするASEAN加盟国のマレーシア、インドネシア、シンガポールと、より強力かつ協調的な取り組みで合意し、外貨収入や武器購入をめぐる規制強化などを通じてミャンマー軍事政権を改革に向かわせるため協働すべきだ。
志を同じくするこれらの国々は、軍事政権に対し、人権侵害をやめるよう圧力をかけるために、明確かつ期限つきのアプローチを策定しなければならない。このアプローチには、石油とガスからの利益および人権侵害者および国軍に対する新たな制裁措置の発動、そのより適切な執行が含まれなければならない。また、クアッドは、中国とロシアから武器を大量購入しているミャンマーに対し、全世界的な武器禁輸措置を科す国連安保理決議を支持すべきだ。
アフガニスタン問題に関しては、タリバンに対し、女性の中等教育の禁止や移動・雇用・服装の規制をはじめとする、制限的かつ侵害的な政策および慣行を廃止するよう圧力をかけることで、その他の各国政府と合意することがクアッドに求められている。日本、インド、オーストラリアは米政府に対し、アフガニスタン中央銀行および世界銀行が管理する教育・保健関連支援プログラムに対する制限について、タリバン当局と合意するよう要請すべきだ。こうした制限がアフガン経済を非常に圧迫しており、人道危機にもつながっている。
北朝鮮に関しては、金正恩総書記および北朝鮮政府との全ての将来の交渉において、人権問題の外交的アプローチや人権ベンチマークなどの人権問題を外交的アプローチや支援に統合することに合意することがクアッドに求められている。また、深刻なレベルに悪化している経済的および人道的状況、そして新型コロナウイルス感染症の発生に呼応した支援を提供するための北朝鮮政府への働きかけについても話し合うべきだ。
スリランカに関しては、現在の経済的および政治的危機の根源が長年の腐敗と透明性の欠如にあり、安定と経済回復への道は人権の尊重、法の支配の強化、説明責任の確保にかかっているという認識がクアッドに求められている。また、国際通貨基金(IMF)によるものを含む経済プログラムを支援すべきだ。これらプログラムは、基本的権利のよりよい保護のための政治的改革を促進しながら、経済危機の悪影響をもっとも受けるぜい弱な立場の人びとの保護を目的としている。そして、過去の人権侵害に対する法の裁きの実現も追求しなければならない。
クアッド首脳は、人権侵害について語る際に信頼を得るには、自国に刻まれた人権問題にも応えていくことが必要不可欠であることを認識する必要がある。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまで数十年にわたって、米国、日本、インド、オーストラリアに対して、重大な人権問題への対応を広く提起してきた。
シフトン政策提言ディレクターは、「クアッドは、アジアの人びとの人権状況の改善に向けた動きは、中国政府の権威主義に対抗する動きと重なっていることを認識すべきだ」と指摘する。「当該地域の真の安全保障は、アジアの人びとが基本的人権と民主的自由を全面的に行使できるのか否かにかかっている。」